これまで と これから

海の向こうからおみやげ持ってきた。

開店祝い

 

1週間前にはそこにはなかったお店がオープンしていた。

 

ときどき通る道の一角に、エスニックでカラフルな、雑貨やアクセサリーのお店が。

 

時間があるなら覗かずにはいられない。


入ると、
ガラスの小瓶や、小さな鏡やビーズで飾られた小物、
半貴石と思われるアクセサリーや、
同じくカラフルな生地で出来たクッションカバーや、スカーフなど、
女性が喜んでその中に「迷い込んで」行きそうな、可愛らしいものに溢れたお店だった。

 

店の奥に、若い、学生みたいに見える男の子が一人、店番で座っていた。


「ちょっと見てもいいですか?」 
店の中を歩き回るまえに、一応そう聞いてみた。


「どうぞ、ご自由に」 
そう言ってくれたので、ゆっくりと、並べられてる珍しい品物たちに目を向ける。

 

「新しいお店ですよね?先週にはまだなかったと思うけど」
「4日前に開店したばかりです」


黙ったまま見て回ったら、カウンターの奥の若い店番さんは、
私を泥棒かも知れないと気が気じゃなくなるかも知れないし、
私も新しいお店の情報を知りたいので、聞いてみる。

 

「珍しいものばかりだけど、全部あなたたちの国から持ってきたもの?」
「そこの棚のはそう。あっちのはインドの品」
「あなたたちの国って?」
パキスタン」 (←・・・か、バングラデシュだった)
「ふーん」

 

やがて私は、夕暮れ時の雲の色みたいな、
きれいな深いピンク色のブレスレットと、
透明度の高い海の色みたいなブルーとグリーンが混じり合った色の、
ふたつのブレスレットに目を奪われた。

 

ひとつ5ユーロ。

 

もうそろそろ暑くなる季節だった。
私はその頃、腕を出す季節には、ブレスレットをつけるのが好きだった。
細い鎖みたいな華奢なブレスレットは持ってたけど、こんな存在感のある、
綺麗な色の、大きめのブレスレットは持ってない。

 

欲しいなぁ。
でもここ数ヵ月、仕事がなくて、貧乏なんだよな。
アクセサリーなんて買ってる場合じゃないぞ?

 

「あの・・・・もし2つ買ったら、値引きとかあるの?」

聞いとくのは基本だ、とりあえず。

「2つじゃ無理かな・・・・たぶんおじさんに怒られる。もっとたくさん買うなら、出来ると思うけど」
「そうだよね・・・」

 

そりゃそうだ、5ユーロだもん。 2つはダメ、1コに絞るんだ、ガマンしろ。
どっちにしようかな。

 

たいていは3分も悩めば決断できるのが普通なんだけど、その日はなかなか決められなかった。
だって
紫がかった深いピンクに、銀色がかったマリンブルー&オーシャングリーンだよ?
似た色から選ぶんじゃない、どっちも全く違う色。
そして、どっちも、とても綺麗な色。

 

言い訳だけど、女のひとって、長い間ずっと自分のために何もしないでいると、
意気消沈して来ない?


小さな、それこそ100均で買える髪飾りでもいいし、
新しい色のリップやマニキュアでもいいんだけど、


なーんにも、しかも長―いあいだ、


自分の心を楽しませるものが生活のなかに一つも入って来ないと、
花が萎れるように小さくしぼんで、鬱っぽくなってしまう。 
自覚のあるなしに関わらず・・・・

 

その時期の私も、もう何か月も、生活必需品以外は我慢しつづけて生活していた。
といっても、幸い、欲しい!と思うものにも出会わなかったし。

 

でもなぜかこれは欲しい。 久しぶりに感じる購買欲だ(笑)

 

いいや、食費で調節しよう。生ハムもモッツァレッラも、しばらく買わない。
野菜中心はいつものことだし、あとはちょっとジェラートを我慢すれば(あれ?)大丈夫。

 

「いまディスオックパータだから、ひとつにしようと思った
けど、決められないや。ふたつともとてもキレイなんだもの。
だからやっぱり、両方ください。」
(Disoccupata 「失業中」 男性は語尾がoになって ディスオックパート)

 

照れ隠しに笑いながら、レジにそっと2つのブレスレットを置く。
店番さんは、それに対してとくに反応もせず、
無表情とも言えるしぐさで商品を紙袋に入れ、
私が出した10ユーロ札をレジのボタンを押して中にしまうと、
1ユーロコインを黙って私の前に差し出した。

 

「?」
ひとつ5ユーロの商品だから、お釣りはないはず。
店番の男の子の顔を思わず見ると、無表情に見える顔だけど、
頬っぺたのあたりが柔らかくゆるんで、かすかに笑っているように見える。


「お釣り?」
「そうだよ」
「どうして? いいの? おじさんに怒られない?」


その男の子は言った。

「ここでは君も僕も、同じ外国人だから」

 

思いがけない言葉だった。

 

自分はおじさんの店で働けてるけど、君は失業中で大変だね。
がんばってね。

 

きっと、そういう気持ちでスコント(Sconto 値引き)してくれたんだ。
外国人として外国に住む苦労や心情を、自分は共有してるよって、私に同情してくれたんだね。
優しい人なんだな。

 

「ありがとう、やさしいね」
(Grazie, sei gentile グラツィエ、セイジェンティーレ)
そう言って私も微笑んで、
ありがたく、1ユーロよりも価値のある、その1ユーロコインを受け取った。

 

「チャオ、ア プレスト」 (Ciao, a presto チャオ、また近いうちにね)
「チャオ」

 

お互い手を振り合って別れた。

 

優しい気持ちを向けてくれる人は、人種に関係なく、思いがけないところにいたりする。

 

そんな あたりまえと言えば当たり前の事実に直面するたび、
私はいつも、自分がひどく、何も知らない、未熟な人間であるような感覚を味わってた。

 

しかもイタリアでは、ほんとによくあったんだ。

 

この街に来るまで、ずっと「閉じて」いて、自分を含め誰にも関心がなく、
人生にも、特に何も期待もせずに生きていた。

 

フィレンツェの街角に出来た、小さなお店。
開店祝いをもらったのは、お客の私のほうだった。

 

あれから何年も経って、少し色がくすんでしまった2つのブレスレットは、
今でも夏になると、ときどき腕にはめる。

 


イタリアでの、やさしい思い出のひとつ。

 

 

 

 
*ひとことイタリア語講座: 

 sei gentileは、相手やあなたが、男性でも女性でも使えますよ。

 

 

 

 やさしい思い出シリーズ:

  

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