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これまで と これから

海の向こうからおみやげ持ってきた。

街に響く音

文化・芸術

 

最初にイタリアに住んだとき
夕方6時の教会の鐘の音を 毎日聴いてた時期があった。

 

2000年代になってからはイベント開催時しか入れなくなってしまった
フォルテ・ベルヴェデーレ(Forte di Belvedere 「ベルヴェデーレ要塞」)が
その頃はいつでも 出入り自由の場所だったから。

 

そこは フィレンツェの街が眼下に一望できる場所で
ドゥオーモはじめ フィレンツェのオレンジ色の屋根屋根が
手に取るような近さで目の前に迫る、ぜいたくな空間だった。

 

びっくりするくらい勾配の急な坂道を よいしょ よいしょ と登って行き
要塞に入ってからも 更に急な傾斜を ようやく昇り切ると、
空にも 前方にも 巨大な空間と、美しい街並みが 地平線のように広がる
その場所にたどり着く。


要塞内の 芝生のところと砂利のところ 
その日 その時に居たい場所で
上がった息を整えながら 6時を待った。
(因みに いちばん街に近い部分は砂利の場所)

 

やがて街の端のほうから、 低い 小さな鐘の音が 静かに響き始める。
カーン カーン・・・・って。


それを呼び水にでもするかのように、 今度は反対側の端のほうから
街の風景の中央のほうから ずっと奥のほうからや、もっと近くのほうからも
カーン・・・カーン・・・ グアン・・・グアン・・・ リンゴン・・・リンゴン・・・
と 街じゅうにいくつもある教会たちが それぞれの鐘を鳴らし始め
それらの音がいっぺんに 何重奏もの音の競演となって 
空いっぱいに響きわたる。

 

教会の鐘の音は、天や 人の信仰心など 
なにか清いもので俗世の汚れたものを浄化してくれるような 
力強さを持っていると思う。

 

日本のお寺の鐘の音も、聴いているとやはり 
心の中の もやっとした黒いものが 
音の響きが消えゆくと共に 静かに浄化されていくような 
不思議な感覚がある。

 

ここで聴く この 鐘の一大コンサートは凄かった。


空間スケールが大きくて
街全体が音を鳴らし、
音の響きが 更に別の音の響きを産み出し、 
音同士が絡まり、余韻同士が 余韻を引き合う。 

 

夕方のその時間に わざわざこの要塞まで登って来る人はあまりいなくて、
ほとんどいつも 私はこのスペクタクルを、
たった一人で独占していた。

 

ふだん街を歩いているときに 
夕方6時の鐘が どうやら一斉に鳴っているのに気が付いて、
「もし あそこで聴いたら どんな風に聞こえるんだろう?」 
と思いついて登ってみたら
想像を遥かに超える音の洪水に出会って感動し、
それ以来 毎日のように通うようになった。

 

その響きを聴きながら
この街はなんて美しいんだろう と 毎日感動してた。


ひそやかに 大切にしまいこむような 私の宝物の時間だった。

 

今 この要塞には登れるのか 
入れる機会があるのかどうか わからないけど
もし入れなかったとしても
要塞の手前にある、貴族の庭園跡ならオープンしてるんじゃないかな? と思う。

 

そこなら気分だけでも 味わえるかも知れない。 
景色の見え方が要塞とほとんど一緒だから。(少し位置が低いけど)
Giardino Bardini 「バルディーニ庭園」 ←たぶんこれ

 

私はこの庭園には 坂の途中の 
コスタ・サンジョルジョの入り口からしか入ったことがないけど、
坂を登らなくても、
下の ヴィア・バルディ-ニ(バルディーニ通り)からも直接
庭園に入れるかも? ←要確認

 

逆に フォルテ・ベルヴェデーレに もし行けるなら 
坂の勾配が大変だけど ぜひ頑張って登って欲しい。

 

私は個人的に この要塞跡が フィレンツェで一番のお薦めの場所。

 

ここから見える 
街とは反対側の、ミケランジェロ広場を望むほうの景色もすごくきれいよ。
オリーブの樹々や 糸杉の姿もある トスカーナらしい田園風景が
目を楽しませてくれる。

 

じっさいのキャンティ地方の風景ほど広大な景色ではないけど、
丘陵地帯の雰囲気を、すこしは感じられる。
昼間に パニーノと飲み物を持って行って、
その風景を眺めながらピクニックするのも おススメ。

 

あと
要塞に上る坂道の途中には 
かの ガリレオガリレイが住んでいた家があるよ。
内部は非公開なので見られないけど (普通に人が住んでるそうなので)
ふたつの坂道がちょうど合流するあたりで
家の壁に描かれた彼の肖像と 碑文を見つけてみてね。

 

その道をずっと散歩して行くのも、時間のある人にはお薦めしたいな。
すごく雰囲気がいいから。
私のお気に入りの散歩コースで、日本から友達が来た時にはいつも
強制的に(笑)連れて行ってた。
20~30分ほどで、ミケランジェロ広場へつながるバスの通る道に出られます。
(道の出口近くに、チャイコフスキーが滞在していた家と思われる建物あり)

 

あの教会の鐘の音は 
私たちのものとはちがう文明の所産だけど 
こんなにも美しく 心を打たれるものなんだ と
ときどき 
その美しさに心が揺さぶられて 涙が出そうになりながら
(音の響きが波のように迫ってきて 身体じゅうの細胞を撫でていくので)

 

この街の歴史の重みも感じながら

 
身体や 五感全体で 
この街に響く音を 感じとってた。

 

あれは とても幸せな時間だった。